大阪珍道中⑮

じりじりと暑い中、たこ焼きが焼きあがるのを待ちます。焼きあがりそうな気配を感じたらいてもたってもいられなくって早々に日傘をたたみ、元あった場所へ。でも、なかなか出来ない。日差しが容赦なく私の顔を襲う。おじさんはやけ具合をチェックし良く焼けてるところのたこ焼きと、まだ焼きが足らないところのたこ焼きを器用に場所をチェンジしてる。あぁ、そんなに丁寧に作ってくれている心意気が今だけは恨めしい。(ごめんなさい。)
ようやく焼けてくれておじさんはさっさとお皿にたこ焼き12個を並べ渡してくれた。ひったくって走りたい衝動を押さえ「ありがとうございますぅ。」と言った後、足早に奥の建物に入りソースやかつぶし、青海苔を好みでかける。(この辺は前のお客さんの一挙手一投足を見て勉強しておいた。)
さぁ、ここからが勝負だ。先ほどから母のただならぬ殺気を感じ取っていた次女は、私の「○○ちゃん、たこ焼き持って!お母さん他の荷物全部持つから!」という言葉に強張った顔で「分かった。」とうなづき、二人は競歩の選手のように近鉄難波駅に向かって歩き出した。走るとたこ焼きが転げ落ちる危険がある。そんなことになったら今までの苦労が水の泡だ。それだけは避けなくてはならない。たこ焼きを預かってる娘はそれを良く理解してくれて、途中かつぶしをぴゅんぴゅん飛ばしながらも手だけは動かさないように私の後を必死で付いてきた。
難波の町はその時間には前日同様の賑わいを取り戻し、人もたくさんいたが私たちはこの人たちは二度と会う事のない人だ、どんな姿を見られたって恥ずかしくはないわ!とばかりにわれを忘れてひたすら走りつづけた。
駅の改札を見たときは「これならいける!」と少し安心し、娘に「たこ焼きは私が持つからロッカーに預けてある荷物をとってきて。」とロッカーの鍵を渡し、自分は娘の切符と指定席を取った。

多分座席についたのは発車5分前くらいだったと思う。
二人ともしばらくは達成感から呆然としていたが、次第に平常心を取り戻し、「良かったね、間に合って。」とか「しっかし、かつぶしを飛ばしながらもよくたこ焼きをひとつも落とさなかったよね。」などと言いながら、さっきの自分たちが走る姿を想像し笑いつづけた。
苦労して死守したたこ焼きはそれは、それは美味しくて、娘と「一つ目ー。」と声をかけながらじっくりと味わいました。幸せじゃ。
続く。